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2009年03月05日

ヤエヤマヤシの秘密

天然記念物・米原ヤシ林でおなじみのヤエヤマヤシは不思議な植物です。
一属一種で自然群落は石垣島の米原と、西表島東部の仲間川中流ウブンドゥル、西部の干立の三カ所にしかありません。
このような奇妙な分布からして、なにやら秘密の過去を隠しているようで、怪しげな魅力を感じる植物ではあります。
ヤエヤマヤシの秘密
米原の群落を見てみると、その周辺に少しずつですが、分布を広げているように見えます。実際、オサハシブトガラスが小さなナツメのようなヤエヤマヤシの果実を食べて、ピーナッツのような種を含んだ糞をすることはよく知られています。
ヤエヤマヤシはこのようにして種子を鳥に運ばせ分布を拡大しているようです。
そこで、一つ目の疑問が湧き上がってきます。
「もし、ヤエヤマヤシが八重山の在来種であるなら、とっくに島中に分布を拡大しているはずではないか?」
ヤエヤマヤシの秘密
(森の中に広がりつつある米原のヤエヤマヤシ群落)

最近ヤエヤマヤシは街路樹などに利用されることが多くなってきていますが、風に弱いので、台風や季節風のストレスで枯れてしまうものも多いようです。生長点が一個しかないので芯止めもできず、電話線や電線の下に植えられたヤエヤマヤシはたちまち邪魔者になってしまいます。巨大な落ち葉も危険なものです。それでも街路樹に植え続けられているのには何か高度に政治的な事情があるのかもしれません。この辺の事情も謎と言えば謎ではありますが、今回は深く追求しないでおきましょう。(消耗品のように枯れては植え替えられているヤエヤマヤシの高価な苗木は気の毒ではありますが・・・植木屋さんには儲けの大きいおいしい商品なんでしょう。)
ヤエヤマヤシの秘密
(街路樹のヤエヤマヤシ)
ヤエヤマヤシの秘密
(台風で生長点が折れて枯れてしまったかわいそうな街路樹のヤエヤマヤシ)  

風に弱いヤエヤマヤシは台風や冬の季節風の影響を強く受ける八重山では森の中に生えています。周りに風除けが無いと巧く育たないということなんでしょう。そして、成木は森の樹冠を突き抜けて、遠目にもそれと判る白い幹を高く伸ばし葉を広げています。このような樹型ですから当然風によるストレスも大きく、台風で幹が折れ枯死することで一生を終えることになるわけです。
ヤエヤマヤシの秘密
(森の中でなら周りに風除けがあるので順調に育ちます。)
ヤエヤマヤシの秘密
(森の樹冠を突き抜け、遠目にも白い幹がよく目立つヤエヤマヤシですが、これ以上高く伸び上がるのは危険です。)
ヤエヤマヤシの秘密
(台風による幹折れで死んでしまったヤエヤマヤシ)

在来樹種の森の樹冠を突き抜けるようにそびえ立つヤエヤマヤシの姿は、どう見ても風景に調和しているようには見えません。
「なぜ、台風の常襲地八重山だけに、このように風に弱いヤエヤマヤシが分布しているのか?」というのが二つ目の謎です。

ここから先のお話は、考古学の勉強を真面目にしたわけでもない全くのド素人が、自然観察で確認した事実と、少しだけ聞きかじった考古学上の知見を元に妄想をふくらませてでっち上げたホラ話ですからそのつもりで読んで下さい。

今から2000年ほど前に「八重山大津波」というとんでもなく大きな津波が八重山の島々を襲ったようです。石垣島では土器文化を持っていた住民が津波で全滅し、津波後数百年間、島は無人島になっていたようです。
その後土器を持たない貝殻文化の人たちが南の島から八重山にたどり着き、定住するようになったようです。1200年ほど前の遺跡からは土器は見つからず、ホラガイやシャコガイなどの大きな貝殻を器として使っていたと考えられています。
この貝殻文化の人たちが現在の八重山の人々の直接の先祖ということになるようです。

では彼らはどこから来たのか?

ここから先、話は更に仮説の上に仮説を重ねたとんでもないホラ話になりますからそのつもりで覚悟して読み進めて下さい。

2000年前の大津波で無人島になっていた八重山の島々に貝殻文化を持ってきた人たちのふるさとは、八重山の遙か東南方赤道付近の島々ではないかと私は想像しています。黒潮の源流・北赤道海流のただ中、ニューギニアの北あたりが怪しいと思っています。パラオからミクロネシア連邦あたりです。
このあたりなら台風の影響も無さそうだし、太平洋プレートの端っこで、大規模な地殻変動が起こっても不思議ではありません。
そして彼らは貝殻文化と共に、ヤエヤマヤシの種子も持ってきたのでしょう。

何のために?

おそらく当時、彼らのふるさとの島は、火山活動や地殻変動が活発になって海に沈み始めたか、火山灰や熔岩に埋もれ始めたのでしょう。そこで彼らは、ふるさとを捨て新天地を求めて船を出したのだと考えます。大切なヤエヤマヤシの種子を貝殻に詰めて持ち出したのかもしれません。

ココヤシなら果実は食用になりますから利用価値はありますが、ヤエヤマヤシの果実は小さすぎ、食用にはなりませんし油を採れるわけでもありません。幹にデンプンを蓄えるわけでもなく、砂糖が採れるわけでもないヤエヤマヤシの種子を命懸けの航海に携えて行かねばならない理由があるとすれば、それはおそらく宗教上の必要性があったからでしょう。

ヤエヤマヤシは細く白い幹がスラリと直立し、遠目にもそれと判るランドマークになります。
八重山では(沖縄でも)御嶽(神様の森)には必ずビロウ(クバ)の樹が植えられていますね。
(「宗教上の必要」といえば、神社の境内などでよく見られるクスノキも大陸から持ち込まれた「史前帰化植物」ですね。)

沖縄の神様は海の向こうから山などの目印を目指してやって来られ、海岸の御嶽の森で休まれてから次の目的地を目指して移動なさるそうです。
御嶽のビロウの樹には、森の目印や移動なさる時の足場という意味合いがあるそうです。
ただ、ビロウは在来種で、確かに風には強いものの、樹高は低く、ヤエヤマヤシのように森の樹冠から突出するというようなことはないようです。
「ビロウはヤエヤマヤシの代用品ではないだろうか?」
つまり、沈みゆくふるさとの島を脱出して八重山の島々にたどり着いた貝殻文化の人たちは先ず、ふるさとの島でそうしていたように、御嶽の森にヤエヤマヤシを育ててランドマークとしたのですが、台風に弱いことが判って、仕方なく在来種のビロウを代用に使うようになったのではないだろうかということです。

何のためにランドマークが必要だったのか?

ヤエヤマヤシは彼らのふるさとの島々(おそらく複数)の固有種だったのでしょう。だから、先に八重山の島々にたどり着くことができた人々は、あとから来るかもしれないふるさとの島々の人たちに対する「私達はここにいるぞ!」というメッセージの発信をヤエヤマヤシに託したのでしょう。

ランドマークになるほど風景の中で突出して樹高が高くなる木というとユーカリやモクマオウがあります。どちらもオーストラリア原産の移入種です。
ヤエヤマヤシの秘密
(バンナ岳南麓で見られるユーカリの大木 戦後、造林組合がたくさんできて造林運動が盛んだった頃に植えられたものだと思われます。幹は直立し、樹高が高くなるので、枝折れが激しいようです。)

フクギやテリハボク、ソウシジュも移入種ですが、これらは風景によく馴染んでいます。それはおそらくそのふるさとが比較的八重山に近い中国南部や、フィリピン、台湾であるからだろうと思われます。
ヤエヤマヤシの秘密
(明治以後台湾から導入されたソウシジュは、すっかり島の風景に溶け込んでいます。)

氷期に植物の分布が南下した時、フクギ・テリハボク・ソウシジュは現在の八重山の在来種と同じ群集の構成メンバーであったはずです。
氷期が終わって温暖化が進んだ時、北上し損ね中国南部やフィリピン、台湾に取り残されたのがフクギ・テリハボク・ソウシジュの三種であったと考えると数万年~数百万年ぶりに旧友に再会した彼らが八重山の風景によく馴染んでいるのも納得できそうです。
ところが、縁もゆかりもない遙か彼方の地から持ち込まれた移入種や外来種は、見知らぬ土地で身の置き所がなく、戸惑うばかりで、風景にとけ込むことなどできないようです。

ヤエヤマヤシの姿を見ていると、「このコも遠くから連れて来られたんだろうなぁ」と思ってしまうわけです。

ところで、米原・ウブンドゥル・干立、三つの群落のヤエヤマヤシのルーツは同じ島なんでしょうか?
私は違うと思っています。
島ごとにあるいは集落ごとに使われている言葉が違うこともルーツの違いに起因するものかもしれません。
八重山のアカマタや宮古のパーントゥなどの行事は、おそらく貝殻文化の人たちのふるさとのものでしょう。

三つの群落のヤエヤマヤシの遺伝子や、アカマタの祭事の中で唱えられる謎の呪文を解析し、ミクロネシアの島々の言葉と比較すれば、そのルーツが明らかになるかもしれません。(人の遺伝子の中にも手がかりが潜んでいるはずです。)


今回は、ヤエヤマヤシを取っ掛かりに、島人のルーツを探るところまでホラ話が膨らんでしまいましたが、「あながちホラでもなさそうだぞ」と、書いた本人は、そう思っています。

11/17の「巨石の来た道」より遙かにスケールの大きなホラ話を書き終え、遠くの方を見ながらホッとしています。











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Posted by 谷崎 樹生 (たにざき しげお) at 01:33│Comments(3)自然観察
この記事へのコメント
はじめまして、こんにちはm(_ _)m
大変不躾で申し訳ありませんが、
当方、ただいま八重山旅行の記事を書いておりまして、
米原ヤエヤマヤシ群落の件で調べていたところ
谷崎さまのブログに辿り着きました。

記事を読ませて頂いたのですが、
大変興味深く面白い記事だったので
当方の記事にリンクさせて頂きたく思いました。
もしよろしければお許し頂けますでしょうか??

記事のUPは本日2011年8月30日22時の予定です。

もしご都合が悪ければご遠慮なくお断り頂いて結構ですが、
当方の気持ちとしては是非是非!!の気持ちです。

それでは、お返事をお待ちしております。
どうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m
Posted by かじぺた at 2011年08月30日 17:36
リンクOKです。
よろしく。
Posted by 谷崎 樹生 (たにざき しげお)谷崎 樹生 (たにざき しげお) at 2011年08月30日 21:37
こんばんは!!
いきなりのお願いに快くお引き受け下さり
どうもありがとうございますm(^0^*)m
とても嬉しいです!!!!!
早速記事をup致しましたので
よろしくお願いいたしますm(_ _)m

本当にありがとうございました!!!
もしよろしければこれからもお付き合いいただければ
嬉しく思います!!!

本当に本当にありがとうございましたm(_ _)m
Posted by かじぺた at 2011年08月30日 22:47
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