「岬めぐり」考

谷崎 樹生 (たにざき しげお)

2022年11月15日 02:44

今年7月に73歳で亡くなった山本コウタローさんの名曲「岬めぐり」は1974年私が大学生になって独り暮らしを始めたころに流行った歌でした。
https://www.youtube.com/watch?v=lzhXOgQ3-xY
山本さん作曲のとても明るく軽やかな曲調ですが、山上路夫さんの作詞の歌詞はとても気になるものでした。

岬めぐり  
(作詞:山上路夫 作曲:山本厚太郎)

あなたがいつか 話してくれた
岬を僕は 訪ねて来た
二人で行くと 約束したが
今ではそれも かなわないこと
岬めぐりの バスは走る
窓に広がる 青い海よ
悲しみ深く 胸に沈めたら
この旅終えて 街に帰ろう

幸せそうな 人々たちと
岬をまわる 一人で僕は
くだける波の あの激しさで
あなたをもっと 愛したかった
岬めぐりの バスは走る
僕はどうして 生きていこう
悲しみ深く 胸に沈めたら
この旅終えて 街に帰ろう

岬めぐりの バスは走る
窓に広がる 青い海よ
悲しみ深く 胸に沈めたら
この旅終えて 街に帰ろう


↑こんな風に歌詞を勝手にブログに載せていいのかは知りませんが、歌詞を読んでもらわないと話にならないので勝手に載せさせていただきます。

歌詞の解釈は人それぞれでいいとは思いますが、
この歌はただの失恋ソングではない、もっと深いメッセージが込められている歌だと私は思っています。

恋人に振られた青年の傷心旅行にしては深刻過ぎる内容ではありませんか!

この青年はなぜ岬めぐりのバスに乗ったのか?
この青年は何をするために岬に行ったのか?

私の答えは以下の通りです。

この青年は将来を誓い合った恋人を病気か事故で亡くしてしまって、人生に生きていく意味を見失ってしまったのでしょう。
いつか彼女が教えてくれた岬に向かったのは、そこで「投身自殺」するためでした。
岬に向かうバスでたまたま乗り合わせた人達は、大きな声で楽しそうに話しながら笑っている。
「自分はこれから死のうと思っているのに、この人たちはなんて幸せそうなんだ!」と青年は思ったに違いありません。

ところが、やがて青年はとても大切なことに気付きます。

幸せそうに笑っているこの人達一人ひとりの人生にも「死んでしまいたい!」と思うほど辛く苦しい悲しみがあったはずだ。そんな悲しい出来事を忘れてしまうのではなく、心の底に深く沈めて、それでも笑って生きていくのが人として正しい生き方ではないか!

青年はそんな人生の真理に気づいてしまったのでした。
だから、悲しみ深く海にではなく胸に沈めたら この旅終えて街に帰ろう もう一度生き直してみよう
と言っているのです。

山上さんの詩をもらった山本コウタローさんはすぐにメロディーが浮かんで、一夜にして完成させてしまったそうです。
名曲というものはそのようにして生まれるものでしょう。

残念なことに、30代以下の若い人達にはこの歌はほとんど知られていません。
聞いたこともないと言う方ばかりです。

昭和のおじさん世代でもこの歌をただの失恋ソングだと思っている方が多いようです。

このまま忘れられてしまってはいけない、深いメッセージが込められた名曲を正しく伝えたくてこんな記事を書きました。

余談ながら、私は若いうちに一度や二度は自殺について真剣に考えることが無いと、人はまともな大人になれないんじゃないかと思っています。
死について考えるということは、生について、人生をどのように生きていくかを考えることにつながるはずです。

ただし、自殺を考えるのはいいが、実行してはいけません。
人生は真剣に取り組む価値のあるものですが、深刻になり過ぎる必要はありません。
生きてさえいれば、なんとかなるものです。