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2016年06月11日

沢登りで見付けた変な石

6月3日(金)に講演会があり、先の記事で紹介した「アンパルマングローブ林の変遷とその再生への提言」というお話をしましたが、翌4日(土)の午後には、アンパルに南側から注ぐウガドゥーカーラという前勢岳北側の沢筋を海抜7mから130mの林道まで登るというイベントがありました。約1.5km 二時間あまりの行程でした。
沢登りで見付けた変な石
地図上にルートを赤いラインで示しました。こうして見ると、ほぼ真っ直ぐ南下するコースです。
途中、線が途切れているのは暗渠の中をくぐった所です。
問題の石を拾ったのは海抜50mを超えたあたりの渓流でした。

30人近くの物好きさんが集まったでしょうか、こんな所を遡って行きます。
沢登りで見付けた変な石

沢筋を登っていくと、サガリバナやモダマ・オオハマボウ・クロヨナなど種子が海流によって分散する植物が目立ちます。
これは、100万年ほど前石垣島は80mほど沈んでいたことの名残でしょう。
付近にはサンゴ礁堆積物が固結してできた琉球石灰岩の露頭もあり、植生だけでなく、地質によってもかつての海面変動の痕跡を確認することができます。

登り進んで、海抜50mを超えたあたりの渓流の流れの中に、奇妙な石を見付けました。
沢登りで見付けた変な石

粗い砂粒が固まってできたような石です。
裏側は
沢登りで見付けた変な石

やや細かい砂粒でできています。
石灰岩や砂岩と同じ堆積岩の一種のように見えます。

粗い面をよく見ると、
沢登りで見付けた変な石
チャートの玉砂利と角礫が混在しています。
ということは、この玉砂利が玉砂利になったのは、この石ができた所ではなく、どこか他の場所です。

前勢岳は冨崎層という地層でできています。
冨崎層は中生代に琉球海溝の向こうの太平洋の海底・フィリピン海プレートの上に砂や泥が堆積してできたものです。そうしてできた堆積岩の地層の中に、チャートという二酸化ケイ素の泥が固まってできたとても硬い石があります。
チャートは海水中に溶けていた二酸化ケイ素が析出して海底に沈殿してできたものでしょう。

では、この変な石はいったいどこでどのようにして出来たものなんでしょうか?
断面を見てみると、いかにも堆積岩です。粗い方を下にしてどこかに溜まった砂粒が固まった岩なんでしょう。
沢登りで見付けた変な石
沢登りで見付けた変な石

ここまでの観察を整理してみます。
冨崎層のチャートが風化して角礫になり、それが波打ち際で波に揉まれて角が取れ、玉砂利になったと考えるのが自然です。
そして、なぜか玉砂利と角礫が混ざった状態で固まっています。
いったいこの石はどんな環境でどのようにして固まって出来たのでしょう。

沢沿いには琉球石灰岩の露頭もありますから、小規模ながらサンゴ礁が形成された時代もあったのでしょう。
ならば、砂浜の砂が固まって出来た「ビーチロック」かもしれないと、最初渓流の中にこの石を見付けた時には思いました。
ビーチロックというのは、
沢登りで見付けた変な石
このようなもので、海岸で海側に傾斜して見られます。
この写真の例では地盤の隆起が激しすぎ、離水ビーチロックという状態になっています。
砂浜の砂がなぜ固まって岩になるのかはまだよく解っていないようですが、地下水の浸み出しが関わっているのかもしれません。微生物の介在も考えられます。
いずれにせよ、ビーチロックは砂粒が石灰質のつなぎで接着されて出来たものです。
浜の砂の中では今まさに固まりつつあるビーチロックが埋もれているかもしれません。
沢登りで見付けた変な石
沢登りで見付けた変な石
沢登りで見付けた変な石
離水ビーチロックの近くで、ビーチロックの欠片をひとついただいてきました。
サンゴ礫や貝殻などが固まって出来ています。

このビーチロックの欠片に
沢登りで見付けた変な石
塩酸をかけると、
沢登りで見付けた変な石
白い泡が出ました。炭酸カルシウムが塩酸で溶かされて、二酸化炭素が発生したのです。

ならば、例の変な石ではどうでしょう。
この変な石に
沢登りで見付けた変な石
塩酸をかけても、
沢登りで見付けた変な石
濡れるだけで、泡は発生しません。
という訳で、ビーチロックでないことは確かです。

ではいったいこの変な石は砂粒がどのようにして接着されたものなのか?

流れの中から拾い上げた時、大きさの割にやや重く感じました。
色も気になりました。乾いても焦げ茶色、赤さび色です。

休耕田や湿地で、こんなものを見たことはありませんか?
沢登りで見付けた変な石
赤さび色の水溜まりです。
沢登りで見付けた変な石
水面には油のようなものが浮いて虹色に光っていますが、これは油の膜ではなく、極薄い鉄の膜です。
ハンドシャベルで触ると割れてしまいます。
沢登りで見付けた変な石
この赤さび色のモヤモヤも虹色の膜も「鉄バクテリア」という細菌が、水に溶けている鉄イオンを不溶性の沈殿に変えて作ったものです。

沢登りで見付けた変な石
「鉄バクテリア」とは、水に溶けている二価の鉄イオンやマンガンイオンを、水に溶けにくい三価の沈殿物(水酸化鉄など)に変える細菌の総称です。
鉄やマンガンを多く含むいわゆる「金気臭い水」から鉄やマンガンを除去してくれるのも鉄バクテリアの作用です。
沢登りで見付けた変な石
この赤さび色のドロドロは不溶性の水酸化鉄を蓄えたバクテリアの死骸です。
沢登りで見付けた変な石
この赤さびの泥が砂粒を繋いであの変な石を作ったのです。

鉄バクテリアは淡水中にも海水中にもいますから、例の変な石は、入江の奥の赤さび色の静かな海の底で出来たのかもしれませんし、森の中の小さな沼地のような環境で、赤さび色の水溜まりの底で出来たのかもしれません。

鉄バクテリアの死骸が砂粒の隙間で乾いて固まってあの石を作ったのでしょう。
このようにして出来た水酸化鉄の塊が「褐鉄鉱」と呼ばれる鉄鉱石です。

以前、「古見のスラ所跡?」という記事http://yaeyamanature.ti-da.net/e2361034.htmlで紹介した褐鉄鉱は、八重山層群の細粒砂岩の割れ目に析出したものですから、今回の変な石とはでき方が違います。






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Posted by 谷崎 樹生 (たにざき しげお) at 05:22│Comments(0)自然観察
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