2012年09月02日
国指定名勝「川平湾及び於茂登岳」保存管理計画策定報告書
石垣島で一番有名な観光地「川平湾」については、このブログでも何度か紹介してきましたが、
http://yaeyamanature.ti-da.net/e2346187.html
http://yaeyamanature.ti-da.net/e2352871.html
http://yaeyamanature.ti-da.net/e3380971.html
時々観察会の資料におまけに付けている面白い図があります。

この図は、2001年に石垣市の教育委員会が作った
国指定名勝「川平湾及び於茂登岳」保存管理計画策定報告書
に載せてもらったものです。
1997年9月に「川平湾及び於茂登岳」が国の名勝に指定されたのを受け、市の教育委員会が「保存管理計画」を策定することになりました。
私は、2000年5月から2001年3月までの任期で「海洋・海浜生物部門」の現地調査員に任命され、川平湾の沿岸から海底までを守備範囲に調査して原稿をまとめて提出したのですが、余計なことを書きすぎた分は採用されず没になったようです。
採用された原稿は、「川平湾の潮間帯」14ページと「川平湾の赤土汚染」2ページだけでした。
没になったのは「風景の美しさについて」10ページと「原風景の復元と風景の演出のための植生管理法の提案」8ページでした。(タイトルからして明らかに守備範囲を超えていますね。だから没になってしまったんでしょう。)
没になった分も結構まじめに書いたから、いつか日の目を見せてやりたいと思っていましたが、
最近(8/26)地元の新聞で、「沖縄県が一括交付金を活用していよいよ川平湾の赤土汚染対策に乗り出す」という記事を見て、そういえば10年ほど前に川平湾の赤土汚染調査をやったなぁ・・・と、あの報告書のことを思い出した訳です。
あれから11年いよいよ出番が回ってきたということなんでしょう。
良い機会だからあの報告書のために私が書いた原稿をみんなこのブログに載せておきましょう。
何が起こっても不思議ではないご時世ですから、大津波で何もかも流されてしまってもweb上にデジタルデータだけは残るようにしておきましょう。
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川平湾の潮間帯
川平湾は、奥行き約2㎞・幅は500m~1㎞で、北東向きに開口する小さな湾である。
湾口は、クスマ(川平小島)やマジャバナリなどいくつかの島でふさがれており、マジャバナリと水産試験場の間の幅100~200mの主水路で、外海とつながっている。
川平湾付近の地形は極めて変化に富み、サンゴ礁や砂浜、ビーチロック、岩礁海岸、干潟、マングローブ、転石海岸など、沖縄の海岸地形のほぼ全てが、コンパクトにまとまっている。
特に、クスマ(川平小島)一周コース(約2㎞)と、湾内往復コース(約5㎞)は、大潮の最干潮時を挟む4時間以内なら、ほとんど足元を濡らさずに潮間帯の自然観察を楽しむことができる。二つのコースについて、自然観察のポイントを紹介してみたい。
●川平小島の自然観察(クスマ一周コース)
石垣島一周道路(県道79号線)の中筋集落の西に川平湾を見下ろす展望台(駐車場)がある。この駐車場の東側に小島に向かって下るコーラル舗装の農道があり、アコウ崎東側の海岸林の手前右側に駐車スペースがある。残念なことに、ここは、廃車捨て場にもなっており、放置された廃車が無惨な姿をさらして美観を損ねている。
クスマ(川平小島)には畑があり、干潮時には干上がった干潟を農家の車が小島に通っている。海岸林をでると、砂浜に続く一面の白い干潟が広がっている。天気が良ければ、砂浜には、スナガニやミナミスナガニ、ツノメガニなどの大きな巣穴とコメツキガニの小さな砂団子を見ることが出来る。
干潟の表面には、ミナミコメツキガニが採餌した跡がモコモコと残り、時には大群で移動中のミナミコメツキガニに出会うこともある。浅い水たまりの中には、管足を使って滑るように異動する砂色のヒトデ(カスリモミジガイ)がたくさん見つかるだろう。時には二匹以上のヒトデが重なっていることもあるが、一番下が雌で、上に乗っているのは全て雄である。このヒトデは、砂の中の有機物を食べて、砂をきれいにしてくれるおとなしいヒトデで、素手で触っても安全である。
干潟には、他にも一筆書きのような不思議な曲線模様が見つかるだろう。棒やハンドシャベルで、曲線の端っこをほじくってみると、皮をむいた小さなタケノコのようなベージュ色の細長い巻き貝が出てくる。砂の中を動き回って、ゴカイなどの小動物を捕らえて食べているタケノコカニモリガイである。タケノコカニモリガイの殻口背面には、イソギンチャクが付いていることが多い。本種と同じような一筆書きを作るものには、毒針を持ったイモガイ類もいるので、素手でほじくったり触ったりしてはいけない。
さらに干潟をクスマに向かって歩いていくと、白い砂地に黒いサンゴ礫や貝殻が埋もれるように散らばっている。これらは表面だけが黒く、裏は白っぽいベージュ色である。干潟の砂が安定しているため、小石でもめったに転がることがないため、日光の当たる表面だけが、藍藻などの植物で覆われて黒くなったのである。川平湾がいかに閉鎖的な内湾であるかが解るだろう。
クスマを時計回りに廻ってみると、一ヶ所だけ川のような流れの跡が見つかる。大潮の満潮時だけ海水が入り込む入り江のような地形になっており、その奥にはヤエヤマヒルギ・オヒルギ・ヒルギダマシ・シマシラキからなる半ば陸封されたマングローブがある。マングローブ湿地の奥は石灰岩の崖になっており、ガジュマルなどの高木の樹冠が崖にかぶさるように広がり、ホウビカンジュというシダが崖の表面を覆っている。崖下ではオオハマボウやサキシマハマボウの大木が、日向を求めて地面を這い、太い幹をくねらせている。 このマングローブの入り口近くには、砂上にコウライシバやミルスベリヒユに混じってイソマツが群落を作っている。岩礁植物の代表とも言えるイソマツが砂上に群落を作っていることからも、この地の砂が非常に安定していることが解る。
クスマの南西岸には砂が溜まりにくいようで、浜が狭く、岩盤が露出したところや転石海岸も見られる。さらにクスマの海岸を進むと、ファーバナリというキノコ岩の左手に水路に向かって白い砂が堆積したパマザキ(浜崎)がある。ここにこのような形で砂が堆積することから湾内の潮汐流の状態を推測することができるだろう。
ユミバナリとクスマの間のクスマ側は安定した砂地の海浜植物帯になっている。春先にはミヤコジシバリ・ハマボッス・ハマウド・ハマユウなどが咲き競い、さながらお花畑のようである。
ユミバナリの北にはやや湾入した岩礁の干潟が広がり、甲羅のルリ色とハサミのオレンジ色が鮮やかなルリマダラシオマネキが、岩の透き間の泥に巣穴を掘ってすんでいる。その陸側にはミズガンピ(ハマシタン)の見事な群落が広がっている。
クババナリとクスマの間はやや深くなっているため、干潮時でも海水が溜まって生きているサンゴが間近に観察できるポイントである。ただし、小潮の干潮では、水の中を歩かねばならない難所でもある。この付近から両岸の石灰岩の崖に、不思議な彫刻が並んでいるのに気づくだろう。直径数十㎝~1m以上もあるたくさんの丸い縦穴が、オーバーハングした石灰岩の崖(ノッチ)を貫いているのだ。この不思議な縦穴群は、川平公園から川平湾岸・さらに吉原海岸まで続いている。この縦穴群の成因については、ヤシやタケなどの植物群落が、津波や地盤の陥没で、一気にサンゴ礁堆積物で埋められて出来たという「埋没化石林説」や、波の力で石が動いて石灰岩の岩盤を削ったという「ストーンホール説」、絶滅生物の巨大な巣穴の化石だという「生痕化石説」、石灰岩が溶けて出来た縦穴(ポノール)だという「溶食地形説」などがあるが、真相は不明である。
クスマの北側は東シナ海に面しているが、約500m沖のリーフ(アールピー)とその内側の礁池(イノー)に守られ、干潮時の波は穏やかである。礁池に面した三ヶ所の浜に、見事なビーチロックが発達している。ビーチロックは浜の砂が固結したもので、沖縄では「イタピシ」と呼ばれ、四角いブロック状に切り出して建築資材として利用されてきた。クスマのビーチロックにも、かつて切り出された痕が残っている。波によって洗い出されたビーチロックの表面では、直径数十㎝のサンゴ塊などの断面が観察できる。ビーチロックは緩やかに海側に傾斜しているため生物の帯状分布が観察しやすい。ビーチロックの陸側には砂が溜まっていて、夏にはウミガメの産卵も見られる。
ビーチロックの海側に溜まった砂は、よく波に洗われており、スナホリガニが棲むほどきれいである。
クスマの南東側の水路は幅100mそこそこで、水深が浅く、大潮の満潮時以外はほとんど干上がっているが、浅いタイドプールもあり、海草藻場の観察がしやすい場所である。
以上、約2㎞の「クスマ一周コース」は、2~3時間で一回りできるお手軽自然観察コースである。
●川平湾の自然観察(湾内往復コース)
「クスマ一周コース」と同じくアコウ崎の東側から浜に出て、時計回りに川平湾奥を回り、対岸を目指す往復約5㎞のコースである。対岸の川平公園や琉球真珠の駐車場に迎えの車が回せるのなら片道2.5㎞あまりのコースになる。
アコウ崎から湾奥までは、石灰岩の崖が続く。キノコ岩や崩れ落ちた巨石の上の海浜植物や海岸林の樹木が見飽きない風景を演出してくれる。ここでも謎の縦穴群が見られる。崩れ落ちた巨石に斜めに開いた穴は、空をのぞく双眼鏡のようである。
崖の上にうっそうと茂った海岸林の樹冠に覆い隠されたポケットビーチもあり、岩肌にミナミタニワタリなどの着生シダも見られ、湾奥の波の穏やかさを物語っている。
キシパラの転石混じりでやや泥っぽい干潟を過ぎると干潟の幅が急に広くなり、足元をすくわれるほど砂が柔らかくなる。砂の中がスナモグリというシャコのようなエビの巣穴で穴だらけになっているのだ。スナモグリの白い脱皮殻がたくさん見つかるはずである。 石灰岩の崖が終わったところにシタフキカーラという小さな川が流れ込んでいる。シタフキカーラとは、「下を流れる川」という意味で、県道79号線の下を伏流となって、おそらく鍾乳洞の中を流れて川平湾に注いでいる。シタフキカーラにはオヒルギとヤエヤマヒルギのマングローブがあり、キバウミニナも見られる。川平湾に流れ込む川は、シタフキカーラより西側にしかない。東岸は、石灰岩地帯で、その上の土壌も花崗岩が風化して出来た砂っぽい赤土(真砂土)であるため、河川が伏流しやすいためである。
湾奥には石灰岩の崖はなく、砂浜に縁取られた広い干潟が西岸のフタバの岬まで続いている。干潟は広大で、幅200~500mにも達し、ミナミコメツキガニの集団も見られる。湾奥には七本の小河川の流入があり、陸上の開発によって、赤土を流し込んでいるものもある。ほぼ全ての河口にマングローブが見られ、干潟にもヒルギダマシやヤエヤマヒルギが進出している。川平湾内では、メヒルギ・オヒルギ・ヤエヤマヒルギ・ヒルギモドキ・シマシラキの四種のマングローブが確認されている。
干潟の先にはピトゥムトゥキシという名のキノコ岩が一つ立っていて、川平湾のランドマークになっている。このキノコ岩の北西にはタカヤクムル、南にはミナダクムルという深みがある。クムルは湾中央部の水路の深みから独立した壺状の深みで、水深数mから十数mに達するものまで、湾内には四ヶ所のクムルがある。湾中央部の水路は水深15~16mもあり、グラスボートが発着する湾口の水路(水深3m)より遥かに深くなっている。クムルや水路部の深みの底には、細かな泥が厚く堆積している。
湾奥の砂浜を縁取る海岸林には、モクマオウが侵入・繁茂し、本来の植生を乱している。湾奥西部のウランナトゥとピシダーマンナトゥという小河川の間は、コンクリート護岸になっており、その前面にはメヒルギの幼木が整然と並んでいる。これはおそらく人為的に植栽されたものである。西岸の干潟は東岸に比べ赤土の流入を受けやすく、やや泥っぽくなっている。特にフタバの岬の南側では、転石混じりの干潟に泥が堆積しているのが確認された。
フタバの石灰岩の崖には、数カ所に四角い人工洞が黒い口を開けている。戦時中に掘られた特攻艇の基地のあとである。その人工洞の前面の干潟は、小石が多く、やや高くなっているが、これは特攻艇の運搬のためのレールを敷くために埋め立てられた名残である。 フタバの北の干潟には、リュウキュウスガモを主体とした大きな海草帯がある。 海草帯は底質が安定しているため、砂地に突き立った二枚貝・イワカワハゴロモや、トゲアナエビの巣穴が見られる。
琉球真珠前の干潟には、ポンプアップされた海水が、流しっぱなしにされており、干潮時でも流水があるため、生物の分布がやや高いレベルに広がっている。また、ここには、生活雑排水の流入もあり、干潟表面に還元層が露出している部分もある。川平地区には、下水道が整備されているが、加入率はやっと60%を越えたばかりである。
川平公園下の崖にも縦穴が密に見られる。グラスボート乗り場付近から北の浜は常に速い潮流に洗われているため、砂は白く美しい。
以上、アコウ崎から川平公園までの2.5㎞あまりのコースでは、生きているサンゴこそ見られないものの、マングロ-ブや様々な表情の干潟と海浜植物が観察できる。

写真1 川平湾の空中写真(1995年撮影)
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★この調子で全部テキストと写真を貼り付けていくといつ終わるかわからないくらい気の遠くなりそうな作業になってしまうので、編集方針を変更してサムネイルを貼り付けてみますね。














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★次は問題の「川平湾の赤土汚染」です。2ページだけですから全文貼り付けとおまけにサムネイルも付けておきましょう。
川平湾の赤土汚染
1995年の空中写真でも解るように、白っぽい東岸の干潟に比べて湾奥から西岸の干潟は赤茶気ており、赤土汚染を受けやすいようである。
東岸は、陸上の土壌が花崗・閃緑岩が風化して出来た 砂っぽい赤土(真砂土)で、海岸は石灰岩の崖になっているため、雨水は地下に浸透しやすくなっている。また、湾内の潮汐流も、東岸を洗うように流れているため、干潟に赤土の粘土粒子が溜まりにくい構造になっているものと思われる。
一方、湾奥から西岸にかけては、陸上の土壌は粘土質で、小規模ではあるが河川の流入が11ヶ所もあり、赤土汚染の影響を受けやすい構造になっている。
川平湾は湾口が狭く(幅100~200m)、浅い水路(水深3~5m)で外海とつながっている。湾内には広大な干潟が広がり、中央部には水深15~16m深い水路がある。また水路からは独立した「クムル」と呼ばれる深み(水深3~15m)があり、深部の海水は入れ替わりにくい構造になっている。
今回、湾内44ヶ所とクスマの外側1ヶ所から底質を採取し、赤土汚染簡易測定法(SPSS法)で、赤土濃度を測定し、川平湾の赤土汚染の現状をおおまかに把握できたので報告する。
湾中央部の水路内の深み二ヶ所とクムル二ヶ所からSPSSランク8(泥そのもの)が確認された。湾奥の水路内でもSPSSランク7が二ヶ所で確認された。
湾内の深みは天然の沈泥池として機能しており、赤土汚染を湾内に閉じこめる働きがあるようである。
干潟は空中写真から予想されたように、湾奥と西岸が東岸より汚染されてはいるが、潮汐と波によって洗われるためか底質表層の汚染はさほどひどくはなかった。河口部に関しても同様のことが言える。湾奥と西岸の小河川から流入した赤土の泥は、干潟には溜まりにくく、水路部やクムルの深みに沈殿するようである。
一方、底質が最もきれいなランク1はクスマの外側ビーチロックのある浜の砂だった。潮通しの良い湾口の水路部の底質もそれについできれいなランク2であった。
今回の調査の結果から、川平湾には赤土流入を防ぐ仕組みがあり、流入した赤土を湾内の深部に閉じこめ、湾外へ流出させない沈泥池としての機能もあることが予想できる。
しかし、1995年の空中写真と比べると、干潟の現状は明らかに赤土汚染が進んでおり、水路部やクムルの沈泥池としての機能も、限界に達しているかも知れない。
今後は、陸側での赤土流出防止対策を徹底し、排水路や河川に溜まった赤土を早急に除去し、湾内への赤土流入を止めなければならない。
その上で、クムルや水路部の深みに溜まった泥の浚渫を続ければ、干潟もやがて元の白さを取り戻すであろう。もちろん浚渫工事が新たな汚染源にならないよう、技術的な工夫が必要であることは言うまでもない。



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★以上が報告書に採用された原稿ですが、一部書き換えられた部分も有ります。役所が出す報告書ですからいろいろ大人の事情もあったのでしょう。
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★さて、ここからが報告書に採用されなかった「まぼろしの原稿」です。
読んだことがある人はあまりいないはずです。私も久しぶりに読みましたが、なかなか面白いことが書かれています。
では、「風景の美しさについて」と「原風景の復元と風景の演出のための植生管理法の提案」二本続けてサムネイルでどうぞ。


















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★以上です。(異常に長くなってしまいましたが・・・・・最後まで読んでくれてありがとう。お疲れ様でした。)
★問題の「川平湾の赤土汚染対策」については、次号につづく・・・・・
http://yaeyamanature.ti-da.net/e2346187.html
http://yaeyamanature.ti-da.net/e2352871.html
http://yaeyamanature.ti-da.net/e3380971.html
時々観察会の資料におまけに付けている面白い図があります。

この図は、2001年に石垣市の教育委員会が作った
国指定名勝「川平湾及び於茂登岳」保存管理計画策定報告書
に載せてもらったものです。
1997年9月に「川平湾及び於茂登岳」が国の名勝に指定されたのを受け、市の教育委員会が「保存管理計画」を策定することになりました。
私は、2000年5月から2001年3月までの任期で「海洋・海浜生物部門」の現地調査員に任命され、川平湾の沿岸から海底までを守備範囲に調査して原稿をまとめて提出したのですが、余計なことを書きすぎた分は採用されず没になったようです。
採用された原稿は、「川平湾の潮間帯」14ページと「川平湾の赤土汚染」2ページだけでした。
没になったのは「風景の美しさについて」10ページと「原風景の復元と風景の演出のための植生管理法の提案」8ページでした。(タイトルからして明らかに守備範囲を超えていますね。だから没になってしまったんでしょう。)
没になった分も結構まじめに書いたから、いつか日の目を見せてやりたいと思っていましたが、
最近(8/26)地元の新聞で、「沖縄県が一括交付金を活用していよいよ川平湾の赤土汚染対策に乗り出す」という記事を見て、そういえば10年ほど前に川平湾の赤土汚染調査をやったなぁ・・・と、あの報告書のことを思い出した訳です。
あれから11年いよいよ出番が回ってきたということなんでしょう。
良い機会だからあの報告書のために私が書いた原稿をみんなこのブログに載せておきましょう。
何が起こっても不思議ではないご時世ですから、大津波で何もかも流されてしまってもweb上にデジタルデータだけは残るようにしておきましょう。
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川平湾の潮間帯
川平湾は、奥行き約2㎞・幅は500m~1㎞で、北東向きに開口する小さな湾である。
湾口は、クスマ(川平小島)やマジャバナリなどいくつかの島でふさがれており、マジャバナリと水産試験場の間の幅100~200mの主水路で、外海とつながっている。
川平湾付近の地形は極めて変化に富み、サンゴ礁や砂浜、ビーチロック、岩礁海岸、干潟、マングローブ、転石海岸など、沖縄の海岸地形のほぼ全てが、コンパクトにまとまっている。
特に、クスマ(川平小島)一周コース(約2㎞)と、湾内往復コース(約5㎞)は、大潮の最干潮時を挟む4時間以内なら、ほとんど足元を濡らさずに潮間帯の自然観察を楽しむことができる。二つのコースについて、自然観察のポイントを紹介してみたい。
●川平小島の自然観察(クスマ一周コース)
石垣島一周道路(県道79号線)の中筋集落の西に川平湾を見下ろす展望台(駐車場)がある。この駐車場の東側に小島に向かって下るコーラル舗装の農道があり、アコウ崎東側の海岸林の手前右側に駐車スペースがある。残念なことに、ここは、廃車捨て場にもなっており、放置された廃車が無惨な姿をさらして美観を損ねている。
クスマ(川平小島)には畑があり、干潮時には干上がった干潟を農家の車が小島に通っている。海岸林をでると、砂浜に続く一面の白い干潟が広がっている。天気が良ければ、砂浜には、スナガニやミナミスナガニ、ツノメガニなどの大きな巣穴とコメツキガニの小さな砂団子を見ることが出来る。
干潟の表面には、ミナミコメツキガニが採餌した跡がモコモコと残り、時には大群で移動中のミナミコメツキガニに出会うこともある。浅い水たまりの中には、管足を使って滑るように異動する砂色のヒトデ(カスリモミジガイ)がたくさん見つかるだろう。時には二匹以上のヒトデが重なっていることもあるが、一番下が雌で、上に乗っているのは全て雄である。このヒトデは、砂の中の有機物を食べて、砂をきれいにしてくれるおとなしいヒトデで、素手で触っても安全である。
干潟には、他にも一筆書きのような不思議な曲線模様が見つかるだろう。棒やハンドシャベルで、曲線の端っこをほじくってみると、皮をむいた小さなタケノコのようなベージュ色の細長い巻き貝が出てくる。砂の中を動き回って、ゴカイなどの小動物を捕らえて食べているタケノコカニモリガイである。タケノコカニモリガイの殻口背面には、イソギンチャクが付いていることが多い。本種と同じような一筆書きを作るものには、毒針を持ったイモガイ類もいるので、素手でほじくったり触ったりしてはいけない。
さらに干潟をクスマに向かって歩いていくと、白い砂地に黒いサンゴ礫や貝殻が埋もれるように散らばっている。これらは表面だけが黒く、裏は白っぽいベージュ色である。干潟の砂が安定しているため、小石でもめったに転がることがないため、日光の当たる表面だけが、藍藻などの植物で覆われて黒くなったのである。川平湾がいかに閉鎖的な内湾であるかが解るだろう。
クスマを時計回りに廻ってみると、一ヶ所だけ川のような流れの跡が見つかる。大潮の満潮時だけ海水が入り込む入り江のような地形になっており、その奥にはヤエヤマヒルギ・オヒルギ・ヒルギダマシ・シマシラキからなる半ば陸封されたマングローブがある。マングローブ湿地の奥は石灰岩の崖になっており、ガジュマルなどの高木の樹冠が崖にかぶさるように広がり、ホウビカンジュというシダが崖の表面を覆っている。崖下ではオオハマボウやサキシマハマボウの大木が、日向を求めて地面を這い、太い幹をくねらせている。 このマングローブの入り口近くには、砂上にコウライシバやミルスベリヒユに混じってイソマツが群落を作っている。岩礁植物の代表とも言えるイソマツが砂上に群落を作っていることからも、この地の砂が非常に安定していることが解る。
クスマの南西岸には砂が溜まりにくいようで、浜が狭く、岩盤が露出したところや転石海岸も見られる。さらにクスマの海岸を進むと、ファーバナリというキノコ岩の左手に水路に向かって白い砂が堆積したパマザキ(浜崎)がある。ここにこのような形で砂が堆積することから湾内の潮汐流の状態を推測することができるだろう。
ユミバナリとクスマの間のクスマ側は安定した砂地の海浜植物帯になっている。春先にはミヤコジシバリ・ハマボッス・ハマウド・ハマユウなどが咲き競い、さながらお花畑のようである。
ユミバナリの北にはやや湾入した岩礁の干潟が広がり、甲羅のルリ色とハサミのオレンジ色が鮮やかなルリマダラシオマネキが、岩の透き間の泥に巣穴を掘ってすんでいる。その陸側にはミズガンピ(ハマシタン)の見事な群落が広がっている。
クババナリとクスマの間はやや深くなっているため、干潮時でも海水が溜まって生きているサンゴが間近に観察できるポイントである。ただし、小潮の干潮では、水の中を歩かねばならない難所でもある。この付近から両岸の石灰岩の崖に、不思議な彫刻が並んでいるのに気づくだろう。直径数十㎝~1m以上もあるたくさんの丸い縦穴が、オーバーハングした石灰岩の崖(ノッチ)を貫いているのだ。この不思議な縦穴群は、川平公園から川平湾岸・さらに吉原海岸まで続いている。この縦穴群の成因については、ヤシやタケなどの植物群落が、津波や地盤の陥没で、一気にサンゴ礁堆積物で埋められて出来たという「埋没化石林説」や、波の力で石が動いて石灰岩の岩盤を削ったという「ストーンホール説」、絶滅生物の巨大な巣穴の化石だという「生痕化石説」、石灰岩が溶けて出来た縦穴(ポノール)だという「溶食地形説」などがあるが、真相は不明である。
クスマの北側は東シナ海に面しているが、約500m沖のリーフ(アールピー)とその内側の礁池(イノー)に守られ、干潮時の波は穏やかである。礁池に面した三ヶ所の浜に、見事なビーチロックが発達している。ビーチロックは浜の砂が固結したもので、沖縄では「イタピシ」と呼ばれ、四角いブロック状に切り出して建築資材として利用されてきた。クスマのビーチロックにも、かつて切り出された痕が残っている。波によって洗い出されたビーチロックの表面では、直径数十㎝のサンゴ塊などの断面が観察できる。ビーチロックは緩やかに海側に傾斜しているため生物の帯状分布が観察しやすい。ビーチロックの陸側には砂が溜まっていて、夏にはウミガメの産卵も見られる。
ビーチロックの海側に溜まった砂は、よく波に洗われており、スナホリガニが棲むほどきれいである。
クスマの南東側の水路は幅100mそこそこで、水深が浅く、大潮の満潮時以外はほとんど干上がっているが、浅いタイドプールもあり、海草藻場の観察がしやすい場所である。
以上、約2㎞の「クスマ一周コース」は、2~3時間で一回りできるお手軽自然観察コースである。
●川平湾の自然観察(湾内往復コース)
「クスマ一周コース」と同じくアコウ崎の東側から浜に出て、時計回りに川平湾奥を回り、対岸を目指す往復約5㎞のコースである。対岸の川平公園や琉球真珠の駐車場に迎えの車が回せるのなら片道2.5㎞あまりのコースになる。
アコウ崎から湾奥までは、石灰岩の崖が続く。キノコ岩や崩れ落ちた巨石の上の海浜植物や海岸林の樹木が見飽きない風景を演出してくれる。ここでも謎の縦穴群が見られる。崩れ落ちた巨石に斜めに開いた穴は、空をのぞく双眼鏡のようである。
崖の上にうっそうと茂った海岸林の樹冠に覆い隠されたポケットビーチもあり、岩肌にミナミタニワタリなどの着生シダも見られ、湾奥の波の穏やかさを物語っている。
キシパラの転石混じりでやや泥っぽい干潟を過ぎると干潟の幅が急に広くなり、足元をすくわれるほど砂が柔らかくなる。砂の中がスナモグリというシャコのようなエビの巣穴で穴だらけになっているのだ。スナモグリの白い脱皮殻がたくさん見つかるはずである。 石灰岩の崖が終わったところにシタフキカーラという小さな川が流れ込んでいる。シタフキカーラとは、「下を流れる川」という意味で、県道79号線の下を伏流となって、おそらく鍾乳洞の中を流れて川平湾に注いでいる。シタフキカーラにはオヒルギとヤエヤマヒルギのマングローブがあり、キバウミニナも見られる。川平湾に流れ込む川は、シタフキカーラより西側にしかない。東岸は、石灰岩地帯で、その上の土壌も花崗岩が風化して出来た砂っぽい赤土(真砂土)であるため、河川が伏流しやすいためである。
湾奥には石灰岩の崖はなく、砂浜に縁取られた広い干潟が西岸のフタバの岬まで続いている。干潟は広大で、幅200~500mにも達し、ミナミコメツキガニの集団も見られる。湾奥には七本の小河川の流入があり、陸上の開発によって、赤土を流し込んでいるものもある。ほぼ全ての河口にマングローブが見られ、干潟にもヒルギダマシやヤエヤマヒルギが進出している。川平湾内では、メヒルギ・オヒルギ・ヤエヤマヒルギ・ヒルギモドキ・シマシラキの四種のマングローブが確認されている。
干潟の先にはピトゥムトゥキシという名のキノコ岩が一つ立っていて、川平湾のランドマークになっている。このキノコ岩の北西にはタカヤクムル、南にはミナダクムルという深みがある。クムルは湾中央部の水路の深みから独立した壺状の深みで、水深数mから十数mに達するものまで、湾内には四ヶ所のクムルがある。湾中央部の水路は水深15~16mもあり、グラスボートが発着する湾口の水路(水深3m)より遥かに深くなっている。クムルや水路部の深みの底には、細かな泥が厚く堆積している。
湾奥の砂浜を縁取る海岸林には、モクマオウが侵入・繁茂し、本来の植生を乱している。湾奥西部のウランナトゥとピシダーマンナトゥという小河川の間は、コンクリート護岸になっており、その前面にはメヒルギの幼木が整然と並んでいる。これはおそらく人為的に植栽されたものである。西岸の干潟は東岸に比べ赤土の流入を受けやすく、やや泥っぽくなっている。特にフタバの岬の南側では、転石混じりの干潟に泥が堆積しているのが確認された。
フタバの石灰岩の崖には、数カ所に四角い人工洞が黒い口を開けている。戦時中に掘られた特攻艇の基地のあとである。その人工洞の前面の干潟は、小石が多く、やや高くなっているが、これは特攻艇の運搬のためのレールを敷くために埋め立てられた名残である。 フタバの北の干潟には、リュウキュウスガモを主体とした大きな海草帯がある。 海草帯は底質が安定しているため、砂地に突き立った二枚貝・イワカワハゴロモや、トゲアナエビの巣穴が見られる。
琉球真珠前の干潟には、ポンプアップされた海水が、流しっぱなしにされており、干潮時でも流水があるため、生物の分布がやや高いレベルに広がっている。また、ここには、生活雑排水の流入もあり、干潟表面に還元層が露出している部分もある。川平地区には、下水道が整備されているが、加入率はやっと60%を越えたばかりである。
川平公園下の崖にも縦穴が密に見られる。グラスボート乗り場付近から北の浜は常に速い潮流に洗われているため、砂は白く美しい。
以上、アコウ崎から川平公園までの2.5㎞あまりのコースでは、生きているサンゴこそ見られないものの、マングロ-ブや様々な表情の干潟と海浜植物が観察できる。
写真1 川平湾の空中写真(1995年撮影)
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★この調子で全部テキストと写真を貼り付けていくといつ終わるかわからないくらい気の遠くなりそうな作業になってしまうので、編集方針を変更してサムネイルを貼り付けてみますね。














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★次は問題の「川平湾の赤土汚染」です。2ページだけですから全文貼り付けとおまけにサムネイルも付けておきましょう。
川平湾の赤土汚染
1995年の空中写真でも解るように、白っぽい東岸の干潟に比べて湾奥から西岸の干潟は赤茶気ており、赤土汚染を受けやすいようである。
東岸は、陸上の土壌が花崗・閃緑岩が風化して出来た 砂っぽい赤土(真砂土)で、海岸は石灰岩の崖になっているため、雨水は地下に浸透しやすくなっている。また、湾内の潮汐流も、東岸を洗うように流れているため、干潟に赤土の粘土粒子が溜まりにくい構造になっているものと思われる。
一方、湾奥から西岸にかけては、陸上の土壌は粘土質で、小規模ではあるが河川の流入が11ヶ所もあり、赤土汚染の影響を受けやすい構造になっている。
川平湾は湾口が狭く(幅100~200m)、浅い水路(水深3~5m)で外海とつながっている。湾内には広大な干潟が広がり、中央部には水深15~16m深い水路がある。また水路からは独立した「クムル」と呼ばれる深み(水深3~15m)があり、深部の海水は入れ替わりにくい構造になっている。
今回、湾内44ヶ所とクスマの外側1ヶ所から底質を採取し、赤土汚染簡易測定法(SPSS法)で、赤土濃度を測定し、川平湾の赤土汚染の現状をおおまかに把握できたので報告する。
湾中央部の水路内の深み二ヶ所とクムル二ヶ所からSPSSランク8(泥そのもの)が確認された。湾奥の水路内でもSPSSランク7が二ヶ所で確認された。
湾内の深みは天然の沈泥池として機能しており、赤土汚染を湾内に閉じこめる働きがあるようである。
干潟は空中写真から予想されたように、湾奥と西岸が東岸より汚染されてはいるが、潮汐と波によって洗われるためか底質表層の汚染はさほどひどくはなかった。河口部に関しても同様のことが言える。湾奥と西岸の小河川から流入した赤土の泥は、干潟には溜まりにくく、水路部やクムルの深みに沈殿するようである。
一方、底質が最もきれいなランク1はクスマの外側ビーチロックのある浜の砂だった。潮通しの良い湾口の水路部の底質もそれについできれいなランク2であった。
今回の調査の結果から、川平湾には赤土流入を防ぐ仕組みがあり、流入した赤土を湾内の深部に閉じこめ、湾外へ流出させない沈泥池としての機能もあることが予想できる。
しかし、1995年の空中写真と比べると、干潟の現状は明らかに赤土汚染が進んでおり、水路部やクムルの沈泥池としての機能も、限界に達しているかも知れない。
今後は、陸側での赤土流出防止対策を徹底し、排水路や河川に溜まった赤土を早急に除去し、湾内への赤土流入を止めなければならない。
その上で、クムルや水路部の深みに溜まった泥の浚渫を続ければ、干潟もやがて元の白さを取り戻すであろう。もちろん浚渫工事が新たな汚染源にならないよう、技術的な工夫が必要であることは言うまでもない。



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★以上が報告書に採用された原稿ですが、一部書き換えられた部分も有ります。役所が出す報告書ですからいろいろ大人の事情もあったのでしょう。
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★さて、ここからが報告書に採用されなかった「まぼろしの原稿」です。
読んだことがある人はあまりいないはずです。私も久しぶりに読みましたが、なかなか面白いことが書かれています。
では、「風景の美しさについて」と「原風景の復元と風景の演出のための植生管理法の提案」二本続けてサムネイルでどうぞ。


















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★以上です。(異常に長くなってしまいましたが・・・・・最後まで読んでくれてありがとう。お疲れ様でした。)
★問題の「川平湾の赤土汚染対策」については、次号につづく・・・・・
Posted by 谷崎 樹生 (たにざき しげお) at 01:02│Comments(0)
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