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2008年12月14日

スイセン

前回は、マダラとオオヒキの真夜中の決闘をスクープしてしまいましたので、今回は予告通り、スイセンのお話しです。
これも大阪の実家で見つけた興味深い現象です。
2003年12月8日の「穂から芽通信」で紹介したものを編集し直して紹介します。

 スイセンという植物は関東以西の海岸近くに広く分布していますが、ヒガンバナ同様、真の自生ではなく、かなり古い時代に人によって大陸から持ち込まれたもののようです。こういうのを史前帰化植物というそうですが、スイセンについては天宝13年に大陸から渡来したというお話しもあるようです。(ヒガンバナは稲作と共に伝来したと言われています。確かに田んぼのあぜ道に植えるとモグラ除けになるとか、救荒作物として球根を利用したという事実もあります。)
 
 ところで、私の実家の方ではスイセンについて、興味深い伝承があります。子供の頃、大人からその話を聞いた時は「なにか病気がうつって、そうなるのかな?」と思っていましたが、大学で生物学をやって「これはウイルス病に違いない!かも?」と、確信?するようになりました。
 残念ながら学生時代はスイセンの咲く時季に帰省することはほとんどなく、仮説を確かめることが出来ませんでしたが、最近では、冬に帰ることも多くなったので、今回永年の疑問についてなにか手がかりをつかみたいと思い、問題のスイセンをよーく観察し、面白い写真が撮れたので、皆さんに紹介します。
 もしこの現象について、真相をご存じの方がいらしたら、是非教えて下さい。
 
 さて、もったいぶった言い回しで、読者の好奇心が高まったところで、私の実家に伝わるスイセンに関する「伝承」について説明いたしましょう。
 『水仙は金気を見せると花が化ける』と言います。つまり、『スイセンの花はハサミや鎌など金属製の刃物で切ると化けてしまう』ということなんでしょう。昔はセラミックの刃物などありませんでしたから、手で折る分には問題ないが、刃物で切ると翌シーズンから花が化けてしまうという事だと思います。

 『花が化ける』とはどういう事かと言いますと、確かに実家の周辺ではスイセンは二種類の花を咲かせています。一つは6枚の白い花弁の真ん中に黄色いおちょこのような副花冠があるタイプ(これが本来の姿)スイセン
もう一つは副花冠がきれいに形成されず、花の形が乱れているタイプ(これがいわゆる「化けた水仙」)スイセン
 うちの実家では副花冠があるものを「ちょく」(たぶん「おちょこ」のことだと思う)と呼び、無いものを「化け」と呼んで区別しておりました。
 花の美しさでは「ちょく」が勝りますが、「化け」は香が強く、毎年冬にはトイレに「化け」水仙の花が生けられておりました。(うちの便所は汲み取り式だけど、冬の間だけ「水仙便所」や!と、思っていたものでした。)
 
 実家の周辺では「化け」水仙が圧倒的に多く、「ちょく」水仙には希少価値がありましたので「たぶんウイルス病だ」と思い込んでからは水仙の葉が出てからの草刈りは控え目にするようにしておりました。
 
 ところが今回さらに奇妙な緑色の花をつけた水仙が幾株も見つかりました。ネギ坊主の出来損ないのような妙な花です。スイセン
「花は葉が変化したものである」の逆を行くように「花が葉に変化してしまった」ような花です。香は全くありません。これを「大化けスイセン」と呼び、香の強いのを「小化けスイセン」と呼んで区別することにします。
 私は今季初めてこの「大化けスイセン」に気づきましたが、実家の母によると「以前から少しはあったが最近急に目立つようになってきた」そうです。
この「大化けスイセン」もウイルス病だとすると、ウイルスのタイプが違うのか?「小化けスイセン」の病状が悪化しただけなのか?謎は深まるばかりです。

 学生時代、沖縄島の首里で見たスイセンはみんな「小化けスイセン」でしたが、本土の水仙の名所では写真で見る限りみんな「ちょく」で黄色い副花冠がしっかりついています。もしかしたらそういうところでは「小化けスイセン」は見つけ次第徹底的に駆除されているのかも知れませんね。
 
 と、仮説の上に仮説を重ねて話がここまで来てしまいましたが、真相は藪の中です。スイセンの花の時季に帰るたびに「ウイルスの感染実験をしてみよう」と思うのですが、「ちょく」が少ないのと庭仕事が忙しいのとで、なかなか実験できずにこの冬も過ぎそうです。
 
(そうそう、去年の冬に大阪の実家から石垣島に持って帰ってきたヒガンバナの球根は、夏中ずっと葉を茂らせたままで休眠する気配がありません。もちろん花も咲きません。これもまた興味深い現象ではありますが、植物観察は気長にやるに限る、ですね。) 
 
 スイセンの小化け・大化けがウイルス病だとすると、いったいこのウイルスはどこからやってきたのか?ウイルス病の地理的分布やウイルスの起源を調べればスイセンの歴史の謎が解けるかも知れませんね。
 
 2003年12月8日の「穂から芽通信」は、ここで終わったのですが、その後、面白い情報が飛び込んできました。
ファイトプラズマという植物病原微生物が感染すると、花が葉化することがあるそうなのです。
たまたま新聞か雑誌の記事で、ファイトプラズマの感染によって緑色の小さな葉の塊のような花をつけたキク科の植物の写真を見つけたのです。
記事で紹介されていたのは、東京大学の難波成任(なんばしげとう)さんのファイトプラズマという小さな細菌(マイコプラズマ様微生物)による感染症についてのご研究でした。
詳しいことは以下のサイトで見て下さい。
http://papilio.ab.a.u-tokyo.ac.jp/planpath/phyto.html

もしかしたら「大化けスイセン」は、ファイトプラズマ感染症かもしれないなぁと思ったので、早速難波さんにこの穂から芽通信を添えたメールを書きました。難波さんも興味を持たれたようで、実家の母に頼んで三種類のスイセンを株ごと掘り上げて難波さんのところに送ってもらいました。
難波さんの研究室では結構詳しく調べて下さったようですが、結局これらはファイトプラズマ感染症ではないという結論になったようです。「遺伝子突然変異ではないか」というのが難波さんのご意見でした。

ちょっとガッカリでしたが、それでも謎はさらに深まるばかりです。
『水仙は金気を見せると花が化ける』という伝承の真偽について確かめることは未だできておりませんし、小化けスイセンが大阪の実家周辺と那覇の首里界隈以外でも見られるのか?大化けスイセンは、どうなのか?
 ファイトプラズマ感染症でないなら他のウイルス病なのかもしれませんが、スイセンの名所では小化けや大化けのような変な花が咲くことはないのでしょうか?
 遺伝子突然変異だとしたら、大昔、大陸からスイセンが伝播した経路を明らかにする手がかりになるかもしれませんね。

そろそろ大阪の実家でも水仙が咲き始める季節です。
もしどこかで小化けスイセンや大化けスイセンを見かけたら是非知らせて下さい。スイセン写真は先日ウミガメ会議で帰省したときの実家の裏庭のスイセンの様子です。そろそろ咲き始めている頃でしょう。


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Posted by 谷崎 樹生 (たにざき しげお) at 01:19│Comments(4)穂から芽通信
この記事へのコメント
きれいですね。
清楚なスイセンを見ると,もうすぐお正月なんだなぁと思います。

ショウキズイセンも化けたりするのかな?
気をつけて観察します。
Posted by sazae at 2008年12月15日 00:05
「スイセンは、金気を見せると花が化ける」という言い伝えが気になります。
実家には園芸品種のスイセンもたくさんあるからこの冬に帰った時に感染実験でもしてみようかな?
いろんな植物で、花や葉に斑が入ったり、形が変形した園芸品種がありますが、ウイルスやファイトプラズマの感染症の症状である場合が多いようです。
Posted by 谷崎 樹生 (たにざき しげお)谷崎 樹生 (たにざき しげお) at 2008年12月15日 09:45
初めまして!笠岡市の六島から書き込みさせて戴いております。六島は水仙の多い島ですが、こちらの記事に載っている大化け水仙や八重咲き水仙が多くあります。この緑の花に関しては、ぼくもずっと気になってました。専門家に聞いても遺伝子の突然変異では?というこたえで、何とも煮え切らない思いです。。また何かわかればまた書き込みさせて戴きます!
Posted by 井関竜平 at 2018年01月23日 08:46
岡山県の最南端、瀬戸内海の六島ですね。
ずいぶん前の記事を見付けて下さってありがとうございます。
その後、この件に関しては何も進展はありませんが、ある種のウイルス感染症ではないかというのが私の予想です。
石垣島の夏はスイセンには過酷なようで、元気に夏越しさせて花を咲かせることができないので、いまだに感染実験は出来ていません。
この冬の帰省で余裕があればやってみようかな?
そちらでは、『水仙は金気を見せると花が化ける』と言います。つまり、『スイセンの花はハサミや鎌など金属製の刃物で切ると化けてしまう』 と言った伝承はありませんか?

スイセンやヒガンバナ、シャガは「自然帰化植物」ですが、どういう経路で伝わって分布を広げたのかも興味深いところではあります。

何か面白い話があれば教えて下さい。
Posted by 谷崎 樹生 (たにざき しげお)谷崎 樹生 (たにざき しげお) at 2018年01月25日 22:26
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